年次有給休暇の5日取得がなかなか進まないんです。
年休の計画に取得してもらう制度を導入すると助成金がもらえると聞いたのですが、うちの会社でももらえますか?
年休の計画的付与制度のことですね。必要な要件を満たせば、受給できます。
この記事では、受給できる要件、支給額、申請方法、といった疑問にお答えするほか、気を付けたいポイントをお話しします。
こんにちは、埼玉県で社会保険労務士をしております高杉(たかすぎ)です。
中小企業の人手不足解消には、助成金を活用した労働環境改善やクラウド導入が有効です。
このブログでは、「中小企業の持続的な成長を支援する」をテーマにさまざまな情報をお届けします。
年次有給休暇の計画的付与制度とは
年次有給休暇の計画的付与制度とは、労使協定を結ぶことで、企業が計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。
割り振ることできる日数は、年次有給休暇の付与日数のうち労働者が自由に取得できる5日間を除いた残りの日数までです。
この制度を導入することで、労働者は確実に休暇を取得できるため、予定していた活動を計画通りに行いやすくなります。
また、事業主にとっては、計画的に業務を運営することが可能となり、労務管理の効率化が期待できます。
助成金の対象となる事業主は
支給対象となる事業主は、次のいずれにも該当する中小企業事業主(個人事業主含む)です。
1.労働者災害補償保険の適用をうける中小事業主である。
2.交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則を整備している。
3.交付申請時点で、年次有給休暇の計画的付与制度を導入していない。
助成の対象となる取組
この助成金は、年次有給休暇の計画的付与制度の導入にともない支出した費用の一部を助成するものです。
労働環境改善を行うには、設備を導入して生産性向上を図ったり、就業規則の変更したり、もろもろの費用がかかりますよね。
そういった費用の一部を国が助成しますので、積極的に進めてくださいね。という考え方です。
具体的には、次のような取組にかかわる費用が助成対象です。
1.労務管理担当者や労働者への研修
2.外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) のコンサルティング
3.就業規則・労使協定などの作成・変更
4.人材確保に向けた取組
5.労務管理用ソフトウェアの導入・更新
6.労務管理用機器の導入・更新
7.デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
8.労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)
助成額は
助成額は次のように計算されます。
対象経費の合計額 × 補助率 = 助成額(上限あり)
補助率 | 上限額 |
3/4(4/5※) | 25万円 |
利用の流れ
助成金を受給するには、利用の流れを守ることが大切です。
順番を間違えると、1円も受給できなくなりますので、気をつけてください。
おおまかな流れを次にようになります。
3の「年次有給休暇の計画的付与制度の導入」と「助成対象の取組」は交付決定を受けたあとに行うことに注意してください。
交付決定の前に、支払はもちろん、発注・契約などを行った場合も、その経費は助成対象になりません。
また支払いは、
・銀行振り込みで支払うこと
・助成対象の取組の費用以外のものと合算しないこと
に注意してください。
就業規則、労使協定の規定例
年次有給休暇の計画的付与制度を導入にするには、就業規則と労使協定を新たに定める必要があります。
厚生労働省が規定例を公開しています。そちらを掲載しますので参考にしてください。
厚生労働省ホームページ「働き方改革推進助成金(年休促進支援コース)申請マニュアル(2024.4)」より
(就業規則の規定例)
第○条 1項~3項(略)(※)厚生労働省HPで公開しているモデル就業規則をご参照ください。
4 前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
(労使協定例1:一斉付与方式の場合)
〇〇株式会社と〇〇労働組合とは、標記に関して次のとおり協定する。
- 当社の本社に勤務する社員が有する〇〇〇〇年度の年次有給休暇のうち5日分につ
いては、次の日に与えるものとする。
〇月〇日、〇月△日、△月△日、□月△日、□月〇日 - 社員のうち、その有する年次有給休暇の日数から5日を差し引いた日数が5日に満たないものについては、その不足する日数の限度で、前項に掲げる日に特別有給休暇を与える。
- 業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は組合と協議の上、第1項に定める指定日を変更するものとする。
(労使協定例2:交替制付与方式の場合)
〇〇株式会社と従業員代表〇〇〇〇とは、標記に関して次のとおり協定する。
- 各課において、その所属の社員をA、Bの2グループに分けるものとする。その調整は各課長が行う。
- 各社員が有する〇〇〇〇年度の年次有給休暇のうち5日分については、各グループの区分に応じて、次表のとおり与えるものとする。
Aグループ 〇月〇日~△日
Bグループ 〇月〇日~△日 - 社員のうち、その有する年次有給休暇の日数から5日を差し引いた日数が5日に満たないものについては、その不足する日数の限度で、前項に掲げる日に特別有給休暇を与える。
- 業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は従業員代表と協議の上、第2項に定める指定日を変更するものとする。
(労使協定例3:個人別付与方式の場合)
〇〇株式会社と従業員代表〇〇〇〇とは、標記に関して次のとおり協定する。
- 当社の従業員が有する〇〇〇〇年度の年次有給休暇(以下「年休」という。)のうち5日を超える部分については、6日を限度として計画的に付与するものとする。なお、その有する年休の日数から5日を差し引いた日数が6日に満たないものについては、その不足する日数の限度で特別有給休暇を与える。
- 年休の計画的付与の期間及びその日数は、次のとおりとする。
前期=4月~9月の間で3日間 後期=10月~翌年3月の間で3日間 - 各個人別の年休付与計画表は、各期の期間が始まる2週間前までに会社が作成し、従業員に周知する。
- 各従業員は、年休付与計画の希望表を、所定の様式により、各期の計画付与が始まる1か月前までに、所属課長に提出しなければならない。
- 各課長は、前項の希望表に基づき、各従業員の休暇日を調整し、決定する。
- 業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は従業員代表と協議の上、前項に基づき定められた指定日を変更するものとする。
まとめ
年次有給休暇の計画的付与制度は、2019年4月の労働基準法改正により、年間10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、5日間の有給休暇を労働者が必ず取得することが義務化されたことに対応する制度です。
以下のポイントを踏まえ、この制度の導入を検討する際の参考にしてください。
<メリット>
- 有給休暇の消化率向上が期待できる。
- 閑散期など会社の業務に余裕がある時期に計画的に休暇を付与することで、業務の効率的な運営が可能になる。
<デメリット>
- 一斉付与の場合、付与日数が少ない労働者への対応が必要となる。
- 個別付与方式では手続きが煩雑になる可能性がある。
制度導入の目的は、労働者が休みやすい環境を整えることにあります。
すでに有給消化率が高い場合や、柔軟な休暇取得が可能な環境が整っている場合は、無理に導入することで労働者の不満を招く可能性もあります。
自社の状況や労働者のニーズを慎重に検討し、最適な方法を選ぶことが重要です。
制度導入が自社にとって有効であると判断した場合、助成金を活用して負担を軽減し、労働環境の向上を図ることをお勧めします。