中小・小規模事業者が求人を出しても応募が来ない理由には、競争との差別化ができていないことが挙げられます。
競合よりも給与など条件面が良ければ応募を集めることは比較的簡単ですが、ほとんどの場合、その点で差別化を図ることは難しいのではないでしょうか。
そうした状況で、まずできることは、求職者が重視する情報を丁寧に記載することです。
実際の待遇や条件が他社を上回っていなくても、他社よりも丁寧に魅力的に伝えることができれば、自社に興味を持ってもらえる可能性が高まります。
ここでは求職者に丁寧に伝えていきたい情報を4つに分類します。
- ワークライフバランス 「所定休日」「年次有給休暇」「残業」
- 安心・安全
- 待遇・条件
- 自己成長
この記事では、ワークライフバランスのなかでも求職者の注目度が高い「年次有給休暇」について解説します。
なお、年次有給休暇は、「年休」「有休」「有給」「有給休暇」とも呼ばれますが、どれも「年次有給休暇」を省略した言葉で、意味に違いはありません。
この記事では、「有休」と省略します。
こんにちは。 埼玉県で社会保険労務士として活動している高杉と申します。
私は、これまでに求人票の作成や求人サイトの構築、会社説明会の開催などを企画し、1,000名以上の採用に成功してきました。
採用に苦戦する中小・小規模事業者様の多くが、自社の魅力を十分に伝えられていないと感じています。
そうした中小・小規模事業者の皆様のために、このブログではお金をかけずにできる求人票の作成方法をわかりやすく解説していきます。
年次有給休暇の情報はわかりやすく丁寧に
有休の付与日、付与日数
求職者が特に注目するポイントの一つが「年次有給休暇」です。多くの企業が魅力的な職場環境をアピールしようとしますが、有休に関する情報を詳細に記載していないことが多いのが現実です。
実際、求職者は有休の付与日や日数、取得率などを重視しています。働きやすさやワークライフバランスを考える上で、有休は非常に重要な要素です。もし有休の情報が不十分であれば、求職者はその企業に魅力を感じなくなるかもしれません。
そこで、求人票には有休の詳細をしっかりと記載することが大切です。有休取得率や取得推進策も記載することで、求職者にとって働きやすい職場であることを強くアピールできます。
明確に伝える!有休の付与日と初回付与タイミング
年次有給休暇は入社から6か月後に付与されることが法律で決められていますが、このタイミングを求人票で明確に伝えることは非常に重要です。
「〇月後に有休10日付与」と具体的に書くことで、求職者は入社後どの時点で有休が取得できるか簡単に理解できます。
また、パート勤務を希望する主婦は子供の学校の三者面談などで休まざるを得ないことがありますので、有休の情報に注目しています。
週1日勤務のパートでも6か月勤務すると有休1日を付与しなければなりません。
週の所定労働日数によって付与日数が異なるため、すべて記載するのはスペース的に難しい場合は、次のように記載する方法があります。
週所定の勤務日数が4日以下の場合は勤務日数に応じて付与されます。
(例)週所定勤務日数3日の場合 6か月勤務後に5日付与
このように具体的かつ正確な情報を提供することで、会社の透明性や信頼性をアピールでき応募の確立を高めます。
求職者に伝わりやすい「付与日数」の書き方
初回の付与日数に加えて、その後年数を重ねることで何日もらえるのかという点も求職者は注目しています。
当然ながら、法令で決まっている日数は付与しなければなりません。
法令通りに付与しているとしても、求職者はそれが何日なのかは知りませんので、できるだけ詳しく記載するのが理想です。
例えば、
勤続3年6か月経つと有休が14日付与され、その後最大20日付与されます。
というように詳細を伝えることで、求職者はその企業での長期的な働き方をイメージしやすくなります。
法令違反がないかチェックする
求人票に有休を記載する際は、法令違反かどうかの確認が必要です。
労働基準法では、週5日以上働くフルタイムの従業員には入社6か月後に有休が最低10日付これを守らないと、法的なトラブルに発展する可能性があります。
求人票に記載する前に、有休の付与条件が法令を満たしているか必ず確認し適切な表現を使うことが、信頼を高めるために必要です。
有休に限らず、求人票のほとんどの項目について労働法令との関連性があるので、社会保険労務士にチェックしてもらうことをお勧めします。
有休取得率を数値で示し、企業の透明性をアピール
求人票で年間有給休暇の取得率を示していない企業は少なくありません。
ただし、これは企業の透明性を高めるにはマイナスであり、求職者に有休が実際に取得できるのか疑問を感じさせてしまう可能性があります。
例えば、「有休取得率80%」という具体的な数値を示唆することで、求職者に「この企業は休みを取りやすい環境が確保されている」と安心感を与えます。
明確なデータを提供することで、企業浸透性を強化し、企業の魅力を向上させることができます。
高い取得率は企業の働きやすさを示す
有休取得率が高い企業は、働きやすさを示す1つの指標としてアピールできます。
「当社は有休取得率が90%を超え、社員が積極的に休暇を取得しています」という説明をそれに伴い、求職者に「働きやすい環境が整っている」と感じさせることができます。
取得率の高さは、単なる数字以上に、社員のワークライフバランスが守られている証拠として効果があります。これにより、応募者の興味を引き、安心感を考えることが可能です。
取得率が低い場合のポジティブな伝え方
有休取得率が低い場合、そのまま求人票に記載するのは不安に感じるかもしれません。
しかし、この状況も工夫次第で企業の魅力として伝えることが可能です。
例えば、「現在、有休取得率は50%ですが、社員がより休みを取りやすい制度を整備中です」と、現状を率直に伝えるだけでなく、改善に向けた具体的な取り組みを強調することが効果的です。
このように、課題を示すと同時に、解決に向けた姿勢や計画を打ち出すことで、求職者に「この企業は従業員の働きやすさを真剣に考えている」と感じてもらえます。
また、低い取得率を隠すことなく正直に伝えることで、企業の透明性が強調され、信頼感が生まれる可能性もあります。
たとえば、「取得率がまだ低いものの、積極的に改善を進めている」というメッセージを伝えることで、企業が前向きな変化を追求している姿勢をアピールできます。
これにより、求職者に「この会社は成長の過程にあり、柔軟に改善を図っている」といった印象を与えることができ、逆に企業の誠実さや信頼性を高めるチャンスとなるのです。
取得日数を示す方法もある
中小企業では、年次有給休暇の「取得率」を示すことが難しい場合もあります。
特に、従業員数が少ない企業では、取得率だけで職場の実態を正確に伝えられない多いです。
そこで「取得率」に代わる方法として、「平均取得日数」を具体的に示す方法があります。
取得日数を提示することで、働きやすさを視覚的にアピールでき、採用活動において信頼性を高めることができます。
中小企業ならではの柔軟な働き方や、社員が休暇をしっかり取れる環境を具体的な数字で伝えることで、求職者に安心感を与えることができます。
検討してみよう!有休に関する制度の導入
年次有給休暇をより取得しやすくするためには、企業が積極的に制度を導入することが重要です。
有休取得率が低い企業では、社員が休暇を取りづらい環境が影響していることが多く、これを改善するための制度の検討が必要です。
有休取得を促進することで、社員のワークライフバランスが向上し、モチベーションや生産性が向上する可能性があります。
具体的な制度が導入できれば、企業の信頼性や魅力を高めるだけでなく、社員が安心して休める環境を整え、企業全体の働きやすさを向上させることができるのです。
時間単位の年次有給休暇
「時間単位の年次有給休暇」とは、時間単位で休暇を取得できる制度です。
「時間単位の年次有給休暇」を導入することで、
- 通院のため、出勤が2時間遅くなる
- 子供の学校の三者面談でのため、1時間早く帰りたい
といった場合に、遅刻早退で給与が控除されたり、1日単位で有休を取得することなく、時間単位で有休が取得できるようになります。
小さいお子さんを持つ母親や、親の介護している従業員にはとても喜ばれる制度です。
制度を導入するには、就業規則への記載や労使協定の締結が必要なので、社会保険労務士にご相談ください。
また、従業員の人数にもよりますが、時間単位で有休の取得状況を手作業やエクセルで管理するのは大変手間がかかります。勤怠管理の専用システムがあれば、有休の付与、時間単位も含めた有休の取得申請・承認フロー、残日数管理などがスムーズに行えるのでおススメです。
積立休暇制度
「積立休暇制度」は、未消化の有休を積み立てて長期病欠時に利用できる制度です。
この制度を導入することで、社員は万が一のときに安心して休むことができ、将来の病気や長期の休暇に備えることができます。
たとえば、忙しくて有休を消化できない社員でも、一定の日数を積み立てておくことで、万が一の際にしっかりと休むことが可能です。
多くの求職者がこれまでの勤務経験で、有休を使いきれずに消滅させてしまった経験を持っているはずです。
そのため、残った有休を積み立てて、万が一の時に利用できる制度に大きなメリットを感じることでしょう。
また、積立休暇制度を導入することで、社員は自分の健康を優先することができ、長期的にみれば企業全体の生産性向上にもつながるはずです。
まとめ
年間有給休暇の情報をしっかりと整理することで、求職者に企業の透明性や魅力を伝えることができます。
特に明確な付与日や付与日数、取得率を伝えることは、求職者の安心感につながります。
次回の記事では、残業についての具体的な記載方法を解説しますので、ぜひチェックしてください!
この機会に、求人票を見直してみましょう。